2011/09/23

#7 The Shattered Skull -燻る煙と燻る火種-















http://loc.to/uo/?ASKT48o57S53o27W from MEGASTORE
The Shattered Skull HP http://tss.michikusa.jp/ 

もしも酒場の壁が口を聞けたなら、そいつの話は何よりも貴重な文献になるだろう。
Wizardry V -Heart of the Maelstrom- プレイングマニュアルより抜粋

The Wall's Talkへの熱望は、古今東西の記者が持つ夢の一つだ。数多の笑い声を聞いてきたこの壁は、いったい何を語りかけるのだろう。












はじめに。

今回TSS様を取材するにあたり、実に様々な方からご意見や情報を頂きました。酒場案内の形で記事を作って来ましたが、TSS様の場合だけは若干他の記事とは赴きが異なっております。

他の記事では、基本的に取材先の酒場の店長様とその場に偶然居合わせたお客様方からの情報のみを素材として作成しています。ですが今回の記事の場合、そのスタイルから大きく外れ、店舗以外の場所(たとえばふらりと立ち寄った銀行前など)で知り合った方々からの情報が多く含まれて構成されています。

その為、異なった立場からの様々な意見や思惑を自分なりに解釈して、出来うる限り中立の立場から記事を書かせていただきました。それをここに書いてしまう時点で、大変な無礼にあたる事は承知しておりますが、頂いた情報を総合させた結果、自分の力量ではこれ以外に書きようがなかった為に、今回のような結果に相成りました。

TSS様には、この記事に対する異議申し立てを行う権利があり、取り下げ要求をする権利もある事は勿論のこと、私自身もそうした要求があれば直ちに従わせていただく事をここに明記いたします。



The Shattered Skullという酒場がある。スカラブレイの西側に位置するここは、一見なんの変哲もない酒場だ。ここはどのシャードにも存在する既存施設の一つであるが、しかしASKシャードでは奇妙なことに、毎日夜十時以降ここを占拠している団体がいる。彼らは言う。「いらっしゃい」と。このシャードのこの時間だけ、ここはれっきとした酒場になるのだ。

この酒場がいつ出来たのか、関係者の話だけではどうもはっきりとしない。というのも、彼らはみな一様に語りたがりで、実に為になる事や重要な事実を教えてくれるのだが、事の真贋についてまでは良くわからないのだ。ほとんどが「多分」だとか「おそらく」だとかを前置きにして言葉を紡ぐ。

いまカウンターの中に立っている女性も、実は店長ではない。彼女の名前はCarsha。別キャラであるItumi氏と共にこの酒場の店員をやっているが、開店当時のメンバーではない。しかしながら、今のところカウンター内に立つ人員が彼女だけらしく、実質的に店長代理の立場にあると言っていいだろう。



Carsha氏とその場に居合わせた常連客が言うには、おそらく七年から八年ほど前にAsukaBBSに寄せられた一つの投稿が切欠で、この酒場が生まれたのではないかとの事だ。その内容を大まかに言ってしまえば以下のようになる。
「最近銀行前(恐らくヘイブン銀行前かと思われる)にしか人が集まらない。そこ以外にも人が集まる場所があってもいいのではないだろうか」
この投書をした人物こそが、TheShatteredSkull(以下TSS)の店長であるOld Karma氏だったそうだ。彼はどうも、言い知れぬ不気味な魅力を持っていた存在だったようである。

実を言うと、私が今回UOに復帰するにあたり、誕生地として選んだのはスカラブレイだった。スカラブレイの街は、首都ブリテインよりもはるかに小規模ではあるが、ちょうど今のヘイブンのようにあらゆる施設や設備がそろっており、新キャラ育成には調度いい場所だったのだ。新しいUOに戸惑い、いったんログアウトするために立ち寄ったのがこの酒場で、調度その時間帯はTSSの開店時間だった。

その時、STRが足りない私に常連の一人がこのブレスレットを譲ってくれた。
私にとって、初めて触れるプロパ付アイテムであり、今でも宝物の一つとして保管してある。

久しぶりすぎた復帰により、日本語入力の仕方すら忘れていた私の事を、TSSの面々は奇異の目で出迎えた。ヤングタグが珍しいのかと、私自身は勝手に勘違いしていたのだが、どうも彼らも私がOldKarma氏なのではないかと疑っていたようだ。最初に作った私のキャラクター名がOld Jhonであり、Old Karmaと似ているからという理由で。

彼らは裏でIRCやMSNを使って、他のTSS客の何人かを呼び出した。そうして訪れた客の一人に、「店長ですか?」と聞かれたのも今となってはいい思い出である。その時は彼らが何を言っているのかまったくもって判らなかったし、誤解を解くために時間を要したのも事実である。どうもOld Karma氏は、ログインしなくなってから随分と時間があったらしく、残された人々は彼の帰還を今でも待ちわびているようだった。

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デンの酒場
サーバー境界線が入り口にある上にガードがいない。
実際にここで営業していれば
多くの障害に頭を悩ませる事になっていただろう。
実際に酒場の取材をしてみると、その気持ちが私にも理解できた。以前記事を書いたKasumiの里のGrow氏のように、行動力の面では中々の人物だったようなのだ。彼が望んだのは地方都市の復興だったようで、要するにヘイブンのみにプレイヤーが集中している事態を好んでいなかったようなのだ。

人口の分布が分散するのではれば場所は厭わなかったらしい。彼が最初に出した案では、フェルッカのバッカニアーズデンにある酒場を拠点とするつもりだったらしい。しかしこれは、当時蔓延していたという「Fに対する謎の嫌悪感」から却下される。

計画の賛同者は多かったようだが、全てに対して頷くイエスマンばかりではなかったそうで、OldKarma氏は"しぶしぶ"提案を取り下げ、今度はトラメルの既存施設利用に視点を移す。

候補地はそれでも二転三転したらしい。デンが駄目ならと対案で出されたのは、有名どころのブルーボア。しかしこれもどういうわけか却下され、結局スカラブレイのこの場所、即ちシャッタードスカル亭に落ち着いたそうだ。本拠地を決めた後「酒場だと言うのにNPCしかいないのはおかしい」と誰かが言い出し、それを受けて彼の計画はPC酒場の形を借りて行われる事となる。店名は非常にすんなり決まったそうだ。何せ、占拠した建物には既に名前がつけられていたのだから。

*****

TSSは他の酒場とは出発地点が異なる。I2Tやポン酢亭は、酒場のために出来た酒場だが、ここだけは別に酒場でなくてもかまわないのだ。要はヘイブンから人が流れてくればいいわけだ。Old Karma氏と最初の数名がその為に仕出かそうとしていた事は、UOの可能性の一つを追求する物だった。The Shattered Skullは、賞金稼ぎの集まる酒場だと言い張っている。新しいプレイスタイルを、プレイヤー自身の手で提供しようとしていたのだ。

現存している賞金稼ぎシステムの仕様書と
あるプレーヤーによる契約書の内容。
本当に初期のUOでは人間の死体を解体することが出来た。首や腕などのグロテスクなアイテムが残っているのは、どうもその名残のようである。この要素は、赤ネーム達に科せられた賞金首制度の為に実装された物で、有名な殺人犯ほど賞金額は高くなり、PvPにスリル以外の実利的な意味合いを持たせていた。残念なことにこの制度は、なにやら宗教的ないざこざによって廃止されてしまった。しかしながら、賞金首とそれを追いかける賞金稼ぎというプレイスタイルは、なんとも魅力的なものとして我々プレイヤーの目に映ったのである。

その再現と再構築を行えば、このスカラブレイにも人が集まるのではないかと考えていた彼らは、さっそく賞金稼ぎというプレイスタイルをプレイヤーに掲示する。酒場の客は、同時に賞金稼ぎでもあり、他の客や掲示板等から寄せられた依頼を遂行して報酬を得る。そのモットーは"どぶさらいからひとさらいまで"。依頼の体を成していれば、殺人だろうが資材集めだろうがゴミ拾いだろうが何でもござれ。個人的には非常に魅力的に感じるUOの新しい遊び方だ。

だが残念な事に、この賞金稼ぎシステムは現在では行われていない。というよりも、わりと早い段階で瓦解してしまったようなのだ。コンセプト自体はとても面白いのだが、わざわざ利用しなくても自分の手で何とかなってしまう状況に、UO自体が変質していた事も原因ではないかと、ある常連は推察している。

資材集め等の物資の調達は、商取引用のBBSを使用すればUO外でも行えるようになっていたし、そもそも護衛や殺人も依頼という形で行う必要性はどこにもなく、ただのフレーバーに過ぎなかった。TSSの開店当初は、それでもその"遊び"を求めた人によって、何度か依頼受注は行われていたようだが、やがてそれも尻すぼみになっていった。

当時の依頼システムのメモから抜粋。
当初はそれなりに活発に依頼が行われていたらしい。
そのどれもが効率よりも楽しさを重視した、ある種のミニイベントのような物ばかりだ。
以前別の酒場紹介記事で、私はASKが保守的であると書いた。もしもTSSがRPが盛んなIZMや独特の文化を有するMZHにいたらと思わず考えてしまう。だが保守的であるということは、同時に現在を大切にすると言い換えることが出来るわけで、ここにジレンマが生まれることになるのだが。

なんにせよ、目玉として考えていた依頼システムは空中分解してしまった。それでもTSSは現存している。当初の思惑から外れてしまったが、それでもこの酒場の雰囲気はプレイヤーたちに好まれたようだ。既存施設を利用したスタイルは他に類を見ない物で、それゆえに何度か公式側からイベント等を通じて接触もあったらしい。

その証拠として、ASKシャードのTSSの軒先には空樽が並べられている。これは他のシャードには見られない特色のひとつで、公式が行っていたBNNに関連したイベントの名残なのである。Britannia News Networkは公式が提供するUO関連のニュースコンテンツとして誕生し、今に至るまで公式サイトに存在している。プレイヤーによるイベントを報道したり、PCが経営する優良店をブリタニアショップアワードとして表彰したり。TSSはその賞に選ばれ、軒先にBNNのニュースキャスターであるメグ=ハマーが設置(?)されたそうだ。このメグ・ハマー、あろう事かTSSから立ち去る際にGM設置物の撤去を怠り、何故か樽だけが今に至るまで放置されている。もっとも古くからのTSS常連は、それを誇りに思っている節があるのだが。

TSS in Asuka
空き樽が並んでいる。
TSS in Mizuho
空き樽はない。

また、つい昨年(2010年)までは、毎年十三日の金曜日になると何らかのイベントが継続して行われていた。死者の花嫁探しだったり、墓暴きだったりとホラー系の物が中心となっていたらしいが、なんでも公式のイベントスタッフがTSSをお気に入りだったからだそうだ。しかし残念な事に、EAによるGMイベントの制度改革によって、毎年恒例のイベントも終了することになったそうだ。

公式側のイベントだけではなく、TSSも独自に様々なイベントを行っていた。少なくとも取材やうわさで聞いた限りでは、それらイベントにGMサポートも行われていたらしいのだ。もはや死語になってしまった"ねるとん"を模したイベントや、A2Lが行う屋台街の護衛イベントなど、その種類は実に豊富である。

酒場で結婚式。二次会場所確保の手間が減って合理的。


そうしたイベントに対する働きかけと対照的に、日常の営業業務はあまり活発ではない。というよりも、本当にやる気があるのか疑わしくなるほどにのんびりしている。普通酒場にいけば、店員達のいらっしゃいませの後にはメニューが出され、注文通りの酒がやってきてわいわい騒ぐものなのだが、TSSはまったく違う。メニュー自体は昔はあったようだが、そんな事はお構いなしに「飲んでく?」と聞かれる。肯定すれば酒瓶が一本手渡されてお終いだ。客に対するI2Tのような配慮は見えず、ポン酢亭のような個性もメニューには見あたらない。

昔使っていたメニューから抜粋。
副情報やスタッフクレジットなど、
メニューというより小冊子のようだ。
「最初の一本目はサービスで、二本目からは金がかかる……らしい」そう話すのは、かつてこの酒場を訪れたことがあるという人物だ。「しかもそこで手渡される酒は、店員のすぐ傍にいるNPC店員から購入した酒で、二本目の代金は店売りの金額+消費税(!?)分とか言ってた気がします」もはや何がなんだかわけが分からない。本当にここは酒場なのだろうか?いや、確かに酒場ではあるのだが、酒場であって酒場ではないというか。

ある意味理にかなってはいるのだが、他のPC酒場に馴染んだ後だと少し異様に感じられるのかもしれない。それだけ聞いてしまえば、サービス面では最悪な評価を付けざるを終えないだろう。だが、酒の代金について語ってくれた彼は、かつてTSSで料理修行をした事があると話を続けてくれた。

「最初はなんで人が集まってるか判りませんでした。とりあえず挨拶をして、カウンター奥にあるオーブンを使ってパンを焼いていたら突然カウントダウンが始まったんです」

TSSではカウンターの中に五秒以上立ち入っていると、強制的に店員にさせられるという恐るべき掟があるのだそうだ。わけがわからないまま五秒間を立ち尽くしてしまった彼は、店長らしき人物からある提案を持ちかけられたという。

「店員になるのが嫌なら、オーブンの使用代金として皆に焼いたパンを振舞ってもらおうか」

その理不尽な言葉に、不快感よりも興味を感じたと、哀れなパン焼き職人は話を締めくくったのだった。結局彼は、料理修行の副産物を客に振る舞い、酒場に顔を出すいい切欠になったのだという。


適当という言葉が、どうやらTSSの本流にあるらしい。店長であるOld Karma氏は、適当の二文字を自らのモットーとしていたそうだ。よって出す酒も適当であり、店の運営も適当なのだ。しかしその言葉の真意は、一般に言われる適当とは異なっている。

とあるゲームで知った話なので非常に恐縮なのだが、適当という言葉にはもう一つの意味が込められているのだそうだ。軍隊等では、「適当にやれ」はいい加減や成り行き任せという指示ではなく、「適切な行動に当たれ」という意味合いを持つ言葉として使われている。Old Karma氏が言う適当も、軍隊式の適当であったようで、一見ちゃらんぽらんに見えても的確な指示と適切な対応を常に行ってきたのだそうだ。

過大解釈かもしれないが、UOでの酒にはほとんど意味がない。つい最近になって、ようやく蒸留酒システムや酔い状態のデメリットなどが導入されたが、酒というアイテム自体はゲーム性にまったく影響しない無駄なものだ。そんな無駄な酒に、わざわざ名前を付ける必要はなく、結局NPCが販売している各種酒に違いなど存在しないわけだから、店側はそれを当然として客に振舞う。"酒"に対して意味づけするのは客達であり、酒に個性を与えるのもまた客だ。だから店員は何を飲むかだけ聞いて、注文通りの酒をだす。どう酔っ払うかは客の自由で、店側が意味を押し付ける必要はない。

勿論、これはヴィンテージ物のエンパスアビーワインなんだと言って振舞えば、受け取ったがわもそういうものなのかと解釈して楽しむだろう。だが、あえてTSSはそういう道を選ばなかった。なんとなく自分自身、買いかぶりすぎな気もしなくはないし、これはこういうことなのかとTSS店員に聞いたとしても、きっと鼻で笑われるだけかもしれない。ただ、そうした適当さが客に自由を与えている事は確かだと思う。


TSSのかつての客の中には、知名度のあるプレイヤーがおおい。
その一人であるWilhelmina氏が店長に"愛をこめて"贈呈したヴァレンタインケーキ。

Old Karma氏はTSS店員達にも「適当にやる」事を求めた。その思いを受け止めた店員達は、自分の個性を店に潰される事なく、自由に発揮できたのだそうだ。そして同じことが客にも起こる。ここを訪れて長く居つくことになった客達は、みなそれぞれが自分の個性を思う存分発揮していったそうだ。

某指輪物語の主人公と同じ名前の吟遊詩人が、高らかに自作の歌を歌う傍らで、人付き合いの悪い仏頂面が、美しい顔に冷めた目を浮かべて酒を飲む。その隣では全身緑色の人物と、金色のオークヘルムを被った戦士が、日本の株価について熱く語る。話題の中心になっているのは、おっとりした口調で言葉を紡ぐ一人の美女。

――話題の種は様々で、時には揉め事にまで発展する物もある。そんな光景が、TSSでは繰り広げられて来たのだそうだ。

加えて、この酒場で出来た縁がきっかけとなり、UOの枠を飛び越えて実社会のコミュニティも生まれたそうだ。TSSに訪れ親しくなった人々は、実際に顔を合わせて定期的にバーベキューやら宴会やらを行っているらしい。いわゆるオフ会というやつなのだが、TSSオフでは今でもかなりの人数が集まっており、中々に盛況なのだそうである。


……ここには厳しいルールなど存在しないし、押し付けられる設定もない。あるのは放任と適当さ、そして賞金稼ぎという遊び方。最盛期には店のテーブルがほぼ埋まるほどに人がいたらしい。にぎわう店内を横目に、店長は満足そうにタバコの煙を燻らせていた。だが、今のTSSには彼の姿はなく、訪れる客も少ない。

寂れてしまったという言葉が、まさに正しいと私は思う。


どうしてこうなってしまったのか、ある人物は度が過ぎた自由が原因だと指摘している。曰く、束縛がなさすぎた為に馴れ合いが生まれ、それが深刻化して、気がつけば仲良しサロンになってしまったのだとか。銀行前の状況を嫌っていたのに、皮肉にも同じ事を繰り返してしまうようになったのだ。

加えて、UOに導入されたアップデートにより(AoSによるアイテムプロパティ導入など)プレイヤー層が大きく変化してしまった事も打撃となったらしい。当時の客のほとんどが、かつてのUOに魅力を感じているプレイヤーだったので、この変化についていけなくなった者は店に愚痴を垂れに来るようになり、それすら厭う者は別のゲームに移動していったのだそうだ。

新しいシステムに順応できた客達も勿論いた。彼らはUOに残る事を決めていたが、それでも変化の波は環境を変えたのだ。店に充満する倦怠感を払拭するために、客の中にはあえてHQ品のみで狩に出かける仲間を募ったり、アイテムに頼らないプレイスタイルを確立しようと考えた者もいたらしい。そんな中、TSS側はスタンスを崩さずに毎日決まった時間に店を開き、やって来た客に酒を振舞う事を続けていた。「ここに行けば、誰かがいる」これだけは譲らずに、Old Karma氏以下店員達は営業を続ける。

だが、ついにOld Karma氏は現状に対して、今後TSSがどういう方向性で歩むべきなのかを決める会議を召集する事にした。会議の出席者は、それまでTSSと深いつながりがあった常連の何人かと店員達。Old Karma氏は、馴染みの顔達にこんな疑問を投げかけた。

「TSSはどうすればいいのか、ではなく、どうあればいいのか」と。

TSS専用の倉庫内部。
屋台営業専用のテーブルセットや、TSSの歴史ともいえる貴重な物品が納められている。
プライベートハウスで、立地も不明。


その会議の後も、TSSは営業を続けている。だが、客足が遠のくと同時に店員も顔を出さなくなり、今では「店員が十時過ぎにログインしていなければ、その日は休業日」という状況である。Old Karma氏が姿を見せなくなったのは、2~3年前の事だそうだ。それ以来、店をCarsha氏と数人の常連が守っている。いつか彼が帰ってくる事を、みな口にはしないが期待している。

会議の結論は、現状維持だった。それがもっともTSSらしいと、出席者は判断したらしい。Old Karma氏は特に何も言うことはなく、タバコをふかし続けていたそうだ。もしかしたらその結論が、今日の状況を招いてしまったのではと考えるのは、あまりに無責任なのかもしれない。しかし……。
「店長は、もっと別の何かを望んでいたのではないか?それと同じことを、出席者達も思っていたのではないか?互いが互いに、誰かが現状を打破してくれる事を待っていたのではないか?」
どうしても私は、そう思わずにいられないのだ。


傍観者という立場に私はいる。私が得た知識は、どれも人から聞いたものだ。この上なく安全な場所に立って、卑怯にも糾弾しようとしているのだ。自分に彼らの何が分かるのだというのか。しかし、考えずにはいられない。The Shattered Skullは、私にとっても大事な場所になりつつあるのだから。

かつて店長が常に身に付けていたエプロン。
これと青いバンダナ、茶色いローブ、そして包丁とタバコが彼のトレードマークだったらしい。

酒場記事を書くにあたって、プロフィールにブログのアドレスと説明文を載せてから、見知らぬ人に声を掛けられる頻度が増えた。その内の何人かはTSSの事を知っていて、賛否両論共にあれど、概ねそこを「面白い酒場」だと考えているようだった。そんな彼らの話を聞いているうちに、最初取材の為に訪れた時に得た"身内"の情報だけで記事を作るのでは、どうにも不足してしまうのではないかと考えた。

彼らはみな語りたがりで、「多分」「恐らく」と前置きして話す。不確かな情報はどんどん溜まっていき、気がつけば膨大な量になっていた。その中から確からしい物を掘り起こしていると、ぼろぼろ転がり出てくるがTSSに対する期待感だ。知名度は申し分ない。自由に遊べる場もある。空気に含まれる閉塞感は、割と簡単にかき消せるかもしれない。今は停滞してしまっているけれど、ここは保守的な人々が作り上げた場所ではない。ここは、世間に対して攻撃的で、どんちゃん騒ぎの出来る場所なのだ。

Old Karma氏の帰還に思いを馳せるのも悪くはない。私自身取材を通じて、彼にかつてのGrow氏の面影を見た。出来ることなら、一度でいいから会話してみたいと思っている。だが、ただ待っているのではなく、行動してみてもいいはずだ。TSSで何かをしでかそうと企む人物が、第二のOld Karmaにならないとも限らない。その資格は、店の関係者だろうが客だろうが関係なしにあるはずだ。全てのプレイヤーは、エンターテイナーになり得るのだ。その火種は今も落ちてはいない。



Old Karmaと数人の仲間によって命を吹き込まれた酒場は、彼と共にあった無数の常連と店員によって育てられてきた。過去の記憶は、決してThe Shattered Skullに未来がないと決め付けていない。まだここは、今にあるのだ。その事実を知るこの酒場の壁は、この世界をどう語るのだろうか。





The Shattered Skull
~賞金稼ぎの集まる酒場~
トラメル/スカラブレイ
毎日夜十時から営業中


[EOF]

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