2011/07/09

#2-2 かすみ亭 -現在-


















http://loc.to/uo/?ASKT130o57S38o23E

トリンシックのゲートを南下すること数十秒。凝った造りのPCハウスが、何件か並んでいるのを目にするだろう。そこはかつて繁栄を極め、ASKのコミュニティの代表格でもあった存在の、今の姿なのである。その中の一軒に、毎週火曜日だけ人が集まる。その酒場の名は、かすみ亭。ここだけは、昔も今も変わらない。






HOLLY-BELLというプレイヤーがいる。彼女の姿は今でもヘイブン銀行前などでよく目にするだろう。実は彼女こそが、今のかすみの里のオーナーなのである。

HOLLY-BELL氏がかすみの里に立ち寄ったのは、まだTが存在していなかった頃。ふらりと立ち寄ったかすみ亭で、店員として雇われた彼女は、後にT側のかすみの里の一角に家を建てた。これが今のかすみの里の原型である。


多くの仲間達と共に、かすみの里の繁栄と衰退を目の当たりにしてきた。一軒、また一軒と腐り堕ちていく住民達の家。それに比例するかのように、かつて共に在ったプレイヤー達も、次々に引退していく中で、彼女は何を想ったのだろうか。その胸中を計り知ることは出来ないだろう。

だがHOLLY-BELL氏は、ただ黙って時間の流れを見ていたわけではなかった。彼女はTカスミの里タワー周辺の土地を、持てる資財をつぎ込んで買い取り始めた。Fかすみの里とは正反対に、こちらでは一軒また一軒と次々に敷地を拡大していったのである。まるで、思い出を買い戻す事が出来るかのように。彼女はただ、「やめ時を見失った」と微笑みながら語っただけだが。

Fかすみの里は、まさに住宅地といって良いほどに、PCの生活臭が感じられる場所だった。しかしTかすみの里の場合、受ける印象は住宅地というよりアミューズメントパークのように思える。某水素原子に酷似したキャラクターのランドのように、そこは訪れるだけで心が躍りそうになる。


かすみの里の各施設には、このルーンステーションから移動できる。

Tかすみは、合計で7つのPCハウスで構成されている。結婚式場や墓地、厩舎といったものに加えて、ワープステーションの役目を持つ物や季節イベント用の土台等だ。驚くべき事に、それら全ての土地は、すべてHOLLY-BELL氏が所有し、管理維持しているのだ。かかる金額は莫大なものであるにも関わらず、一軒一軒を覗いてみると、全くといって手抜き感が感じられない。中にはハウスカスタマイズの真髄を体験できるような物まである。

かすみの里教会
その姿はまるで巨大なジオラマのよう。

たしかに当時を知るものにとって、現かすみの里は別物に見えるだろう。事実、見てくれは全く異なるし、当時のような活気も無い。人の気配すら全く感じないゴーストタウンのようにさえ写るかもしれない。しかし、ここにはまだ、あの頃の息遣いが生き残っている。

かすみ亭。毎週火曜日夜十時半から営業している、かすみの里の酒場である。現在の店主はROKI氏であり、彼はHOLLY-BELL氏に雇われているということだ。紆余曲折があったようだが、語るべきことではないので割愛する。

店長 ROKI氏


このかすみ亭、実は表立って酒場として営業しているわけではない。元々はFかすみにあったのだから、こちらにもという理由で存在だけはしていたのだが、そこをHOLLY-BELL氏と親交の深いヘイブン組みなどのたまり場にしたのだ。



その為、かつてのかすみ亭のような雰囲気は無い。どちらかというと、銀行前のたまり場が、そのままここに移動してきただけに見えるだろう。対外的に告知しているわけではないので、やってくるのはいつも同じ顔ぶれだ。それは穿った見方をしてしまえば、停滞といえるかもしれない。

しかし、停滞は決して悪い意味だけを持つわけではない。それは進歩の前の準備期間かもしれないし、嵐の前の静けさなのかもしれないのだ。その証拠に、かすみの里は時々とんでもない事をやらかすらしい。





「HOLLY-BELLが行動すると、サーバーの負荷テストが始まる」という常連の証言がある。当時を知るものは、皆苦笑いを浮かべて回想する。そして口々に言うのだ、あれはやばかったと。

数百枚以上の投網を、数十人のプレイヤーがいっせいに海に投げ入れるイベントを、つい最近行ったらしい。残念ながら私にはそれがどういった物なのか、仕様を理解していないので分からない。ただ、何となくではあるが、常連の表情を鑑みるに、なにかとても驚愕すべき事なのだろうと思う。




また、このかすみ亭から西方向に行った所には、実は物凄く貴重かつ奇妙奇天烈なタワーがある。外見はただのタワーであるが、その中には博物的価値のある様々な物が詰め込まれているのだ。



今回取材ということで、特別にその中を拝見させていただいた。その中には、なんとNPCが所持している全サンダルが陳列されていたのだ。全て何の効果もないサンダルではあるが、色が一つ一つ異なっている。それを全てそろえる為、一体何人のワンダリングヒーラー達が犠牲になったのか。関係者は少し恐ろしげな笑みを浮かべるだけだ。


床一面のNPCサンダル
辺りには野良ヒーラーの怨嗟の声が


屋上には昔懐かしスタックオブジェの家

匠の技である


特筆すべきなのは、このタワーがGMの目に留まったという点であろう。もちろん悪い意味でだ。かつてのUOは、プレイヤーの周囲にある全てのオブジェクトが同時に読み込まれる仕様だった。その為ショボイ回線やスペックの持ち主だと、住宅街に入り込んだ時点で急激なラグに襲われる。先人はこう言った。「赤に襲われたなら、住宅地に走れ」と。

この通称サンダルタワーは、そのあまりのオブジェクト数により、GMから警告を受けた。「周辺住民とサーバーに物凄い負荷が掛かるからヤメテ!」そんな事を赤いローブを着た、絶対的な力と権限を持つ者が涙目になって言いに来る。なんとも微笑ましい。

クリスマスシーズンには、風物詩とも言えるクリスマスツリーがここ、かすみの里に現れる。これもまた恒例となっているらしく、毎年多くのプレイヤーが訪れるのだそうだ。毎回違った趣向で作られるツリー、HOLLY-BELL氏のUOはまだ終わらない。


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時間は流れ続ける。かつてのかすみの里はその流れに溺れて沈んだが、決して死んだわけではない。トラメルのここに流れ着いて、今なお呼吸を続けている。「昔のほうがよかった」そんな言葉を口にしやすくなった今のUOだ。それは確かに正論だろう。あの頃は自由があった。

だからといって、今を腐していいわけじゃない。
時代は変わったが、本質は変わっていない。

希代のエンターテイナーが生んだかすみの里は、UltimaOnlineの持つ可能性の一つを体現していた。そしてそれは、まだ生きている。

その事実は、古参プレイヤーになにかを語りかけているように思える。

かすみ亭二号店にて

かすみ亭
トリンシックゲートから南
川を迂回してさらに南
営業時間22:30から

[EOF]

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